秘密の地図を描こう
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「エクスンテッド?」
耳慣れない言葉に、キラは首をかしげる。
「投薬や手術で身体能力をコーディネイター並に上げた経か人間の総称だそうです」
彼もその一人らしい、とニコルはため息をつく。
「レイ達が、その教育施設らしい場所を発見していました」
ため息とともにニコルがそう言った。
「ほとんどの資料は破棄されていたそうですが、データーが残っていたそうなので、こちらに回してもらいました」
それと、バルトフェルドのためにガイアも……と彼は続ける。
彼の言動から、自分に知らせたくない何かを隠しているらしいと伝わってきた。しかし、それが自分のためだろうと考えているのだ。あえて、それについては追求することをやめる。
「データーの解析と、地球軍へのハッキングを同時にやらないとね」
要するに、とキラは代わりに口にした。
「そうですね。彼らの場合、自力で体調を維持できないらしいので……」
そのための手段があったはずだ。ニコルはうなずく。
「とりあえず、データーの解析は僕がやります」
だから、と彼は続けた。
「うん、わかっている」
ハッキングなら自分の方が得意だ。だから、とキラもうなずく。
しかし、だ。
どうしても引っかかってしまう。
何故、ザフトは基地の存在を知っていたのか。そして、ガイアを鹵獲できたのか。
原因となった事柄があるはずだ。
それを問いかけていいものかどうか、とキラは悩んでいた。
狭い部屋の中をシンがうろついている。
「……いい加減にしろ、シン」
さすがに鬱陶しくてならない。だから、とレイは彼に声をかけた。
「だけどさ、レイ……」
ようやく動きを止めた。
「このままだと、あの子、死んじゃうんだろう?」
いくら何でも落ち着いていられない、と彼は言い返してくる。
「確かに、あの子は地球軍のパイロットかもしれないけど……だからといって、死んでいいってことにはならないじゃん」
ある意味、彼女も被害者ではないか。彼のこの主張は正しいかもしれない。しかし、とレイはため息をつく。
「だからといって、どこに連れて行くと言うんだ?」
自分達ではどうすることもできないぞ、とそのまま口にする。
「それなんだけど、さ」
シンが不意に声を潜めた。
「一緒にガイア、持って帰ってきただろう?」
「あぁ」
「あれ、搬送されたってさ。アークエンジェルに」
そのとき行った人間の話では、あちらにはアビスがあったらしい。
「ひょっとしたら、キラさん達が別の誰かを保護したのかもしれないぞ」
キラの性格なら、十分にあり得る。レイは思いきり納得してしまった。
「ひょっとしたら、あちらでなら実験材料ではなくちゃんと治療を受けさせてもらえるかもしれないじゃん」
あくまでも可能性だけだが、とシンは言う。しかし、本当ならば十分にあり得るだろう、とレイも考える。
「とりあえず、確認だけしてみるぞ」
その後のことはその後で考えよう。そういえば、シンは嬉しそうにうなずいてみせる。
「とりあえず、メールだな」
連絡が取れればいいが。そう思いながら体の向きを変えた。
「いいな、レイ……」
自分もいつでもメールを出したい、とシンは呟く。
「アドレスは知っているんだろう?」
「……でも、許可もらってないから」
その言葉の後に続くであろうセリフをレイは簡単に推測できる。
「ついでに、確認しておいてやるよ」
その瞬間、彼は嬉しそうに笑って見せた。